木削りは、木片と刃物があればできるもの……。

はつり台の上に置いてある、手斧とスプーンをつくるために荒木取りした材

乾いた木を削るのも魅力がありますが、生木の木削りであるグリーンウッドワークの良さがどんなところにあるかというと(私感ですが);

  • 剪定、間伐など、何かの事情で伐られることになるとき、その木をすぐに活かせるところ
  • 伐る場に立ち会うと、木の元の姿や生えている場所を体感できて、より木々に親しめるところ
  • 削るとき、みずみずしい香りや質感を体感できるところ
  • 水分を多く含むので、やわらかくて削りやすいところ
  • 少ない力で、手道具だけで、ものづくりができるところ
  • 手道具で削るため、木目に沿って削ることができ、ある程度薄め・細めにしても強度を保てるところ
  • 生木は柔軟性があって融通が利くので、木削りでつくったパーツを組んで椅子などをつくるとき、寸法に多少の誤差があっても大丈夫なところ(木のおおらかさを感じられます)

木工といえば、乾いた木を使ってするものというイメージが私にもありました。ところが、グリーンウッドワークを知ってから見まわしてみると、日本にも、外国にも、生木を使う木工が意外とありました。

つづき…
昔からある日本の”グリーンウッドワーク”
北欧の伝統
「木は反る、あばれる、狂う…」
やわらかいこそ&乾くと縮むからこそ
木々の声、モノの声
というわけで、グリーンウッドワークとは……

■昔からある日本の”グリーンウッドワーク”

日本にはかつて、里山のむこう、人里離れた奥山の森の中を移動しながら、木を伐ってその場でお椀やお盆などを手道具でつくっていた、木地師さんたちがいました。

明治6年に編集された『斐太後風土記』に、木地師についてのこんな記述があるそうです。

「彼らはトチ・ブナ・ケヤキなどの木を切ってわん型にくり、深い奥山の山小屋でろくろを使いわん木地をひく。付近に用材のある間はそこにいて近くの市町の卸店・仕入商人に製品を送り、その代価で生活に必要な米・塩と交易した。そして用材を切り尽くすと、また他の山に移り一生を同じ山で過ごすことはなかった」

鳥取県湯梨浜町のホームページより

もっと現代に近い時代でも、生木を使って生活用品をつくる伝統は、日本の各地にあって、今も志ある方々によって受け継がれています。岐阜県飛騨地方で朴の生木からつくられてきた「有道杓子」、石川県にかつてあった我谷村で栗の生木からつくられていたという「我谷盆」は、それぞれ奥井京介さん、森口信一さんが伝えてくださっていて、私も教わってつくってみたことがあります。

栗の木から削り、削りくずを煮だした染液でこげ茶色に染めた、小さい我谷盆のトレイ
ミニ我谷盆
朴の木を削ってつくった、鍋物などに使う有道杓子。ミニ版と2つ並んでいるところ
有道杓子(ミニ版と)

新潟と長野の県境に位置する秋山郷では、栃の生木でお鉢などの生活用品を自作自用する伝統があったそうで、畑仕事の合間に手道具で削っていたという記録が、故秋岡芳夫さんの本『木のある生活』にあります。「最後の工程を除いたあとの全部を、木が濡れた状態で」行っていたとこのことです。

ほかにも、いろんな生木の木工の伝統が、この島の各地にあるんだろうと思います。これからもっと出会っていきたいです。

■北欧の伝統

国土に森林が占める面積のランキングがあって、先進国(この言葉、違和感ありますが💦)の中では1位がフィンランド、2位がスウェーデン。そして3位が日本です。

これはグリーンウッドワークを始めて、初めて知ったことでした。

「森の国」仲間の北欧の国々にも、やはり、生木を手道具で加工する木工の伝統があります。バーチ(樺)の生木で、スプーンや器をつくる手法が残っています。

おもしろいのが、木が曲がって生えて/育っている部分を活用して、カーブのついたお玉などをつくるところ。木の繊維が断ち切られず端から端まで通るので、丈夫に仕上がるのです。

ヴィレ・スンクヴィストさんの著書の表紙
ヴィッレさんの著書

スウェーデンの木工家、故ヴィッレ・スンクヴィストさんが、この伝統がすたれそうになっていた時代にそれを記録化すること、教えることに取り組んだおかげで、失われずに残りました。

ヴィッレさんは独自のナイフの使い方もいろいろ考案されていて、台などに材を固定せずに、自分の体とナイフだけあれば、身一つで材を安定させて、安全に(ここ大事!)効率よく削れる方法を伝えてこられました。

赤いエプロンをした膝の上で、片手でクリ材の食事用スプーンを持って削っているところ、くるんとした削りくずが柄の部分に数本くっついている

斧で木を割り、はつり、ナイフで削ってスプーンを削るのが、欧米でさかんになってきてますが、そのおおもとになっている技術・手法・考え方はこのヴィッレさんが伝えた北欧の生木の木工のようです。(ぐり と グリーンウッドワークでまず共有していきたいと思っているのも、これです)。

side note: 刃物、とくに鋭利に砥いで使う木工用の刃物は、ひとつ間違えるとけがをします。シンプルな手道具の刃物は、手に取って 直感的に使い始めることができてしまいますが、安全に楽しく使えるようになるには、ふさわしい使い方を学ぶことと、繰り返しの練習が肝要だというのが私の実感です(自分も初めは切り傷をいっぱいつくり……、繰り返し教わりつつ、少しずつ慣れていきつつ、今も学びと練習の途上です)。

■「木は反る、あばれる、狂う…」

削り馬と削りかけの材とたくさんの削りくず
手動(足動?全身動?)
の道具、削り馬

生木の木工はとにかく、手道具との相性がいいです。機械で加工しないとどうにも大変、という世界でなくて、人力で取り組める、身の丈に合った木工です。

ただ、生木は乾燥と共に変形したり割れたりすることがあります。これは生木の木削りのディスアドバンテージなのか?というと、私はこれがまた魅力だと思っています!

樹皮のついたエゴノキの若木の幹を切ったものと、同じ木を割ってはつったあとの小さめの材が削り馬の上に置いてあるところ
いろんな木々と

変形をうまく利用したり、割れを防いだりするための工夫の余地はいろいろあるようだし、なにより、「最後どんなふうになるか」について自分のコントロールの及ばない部分があることって、大切だと思います。

木という自然の存在と一緒にものづくりをするのだから、一方的にこちらがつくりたい形を押し当てるより、あちらが差し出してくれるものとやりとりしながら進みたい。。。

秋岡芳夫さんは「木はそる あばれる 狂う 生きている だから 好き」と書いた額を家の壁に飾ってらしたそうですが、いろんな木のふるまいと出会いながら、少しずつそれぞれの木の個性と知り合っていくのは楽しみでしかありません…!

■やわらかいこそ&乾くと縮むからこそ

組み上げた椅子のフレームを、森の中の工房の屋根の梁にひっかけて、そこにぶらさっているところ
クギ・糊なしに組み上げてすぐぶらさがっても外れません

生木はやわらかい&木が乾燥とともに縮むという性質そのものを用いて、クギや糊を一切使わずに椅子などを頑丈に組み上げることができるのも、グリーンウッドワークならではです。

椅子の脚に穴をあけて、そこにほかのパーツを挿し込んで組み上げるわけですが、生木から削ってほどよく乾燥させた脚に、削った後しっかり乾燥させたパーツをきつめに挿し込むと、脚に少し残っているやわらかさがまずパーツをがっちり受け止め、そのあと乾いたパーツが脚の中に残っている水分を吸収して膨らむのと、脚全体が徐々に乾燥するのとで、ぎゅっと締まるのです。

5枚の背板がはしごのようについていて、座面はベージュの草が編んである、焦げ茶色の木製チェア
クリセットさん作の椅子(写真:Los Angeles County Museum of Art [Public domain])

イギリスでは昔からこのやり方で椅子をつくっていた伝統があったそうで、椅子職人の故フィリップ・クリセットさんの椅子が知られています。イングランド中部地域の昔ながらの手法で、アッシュの生木で素朴なデザインの椅子づくりをしたのでした。日本では「ラダーバックチェア」として親しまれているデザインです。

彼は1880年代に起こった「アーツ・アンド・クラフツ運動」(日本の「民藝」運動に影響を与えたといわれる運動)に関わり、その中でこの生木の椅子づくりを別の家具職人に教えました。その人を通じて、この製法がほそぼそながら世代間で受け継がれ、そのおかげもあって現在、イギリスのグリーンウッドワーカーに広くつくられるようになっています。

森の中にしつらえられた焚火の煮炊き場の上に並ぶ、赤や深緑やいぶし銀のポットや鍋などの道具
マイクさんの森の工房の一角

クリセットさんの椅子を研究され、クリセットさんにゆかりある地の森の中に工房を構えて、手道具での生木の椅子づくりを長年一般の人に教えてこられた人のおひとりに、マイク・アボットさんがいます (現在は拠点を自宅のお庭に移しておられます) 。グリーンウッドワーク界のお父さんのような存在の方のおひとりです。

イギリスのクリセット・チェアと似たような考え方なのが、スペイン南部アンダルシア地方で昔から行われていた手道具による椅子づくり。イギリスの椅子よりも素朴な佇まいの椅子で、生木のポプラの木でつくられます。日本では「ゴッホの椅子」と呼ばれたりしています。この椅子に関しては、久津輪雅さん著『ゴッホの椅子』に詳しいです。とてもおすすめの1冊です。

アメリカのインディアナ州南部でつくられていた椅子も、同じ発想だったそうです。生木のレッドオークを脚に、乾いたヒッコリーをそのほかのパーツに使っていたそうです( Simon J Bronner さん著『Encyclopedia of American Folklife』より)。アメリカ方面の生木の椅子づくりについては、私自身は勉強不足なので……もうすこし勉強したら、書きたいと思います。

追記(2024年):アメリカでの生木からの椅子づくりについてはジョン/ジェニー・アレクサンダーさんの研究と貢献が多大で、イギリスでの継承の流れもそこに影響を受けていたことを最近知りました。こちらに書いたのでご興味あればどうぞ。アレクサンダーさんは脚はホワイトオーク、その他のパーツはヒッコリーを好みました。

■木々の声、モノの声

下から見上げた大きな木々、後ろに青空
いつもそこにいてくれている木々

生木を使う木工、グリーンウッドワークは、そんなわけで、産業革命前からあった手仕事の木工です。おそらく遡れば、石器時代からあった手仕事です。

身の回りの木々で、生活のための日用品を、自分の手でつくる、という伝統。。。

生木の木削りは、世界各地の先住民族の方々にも教わることがたくさんあるように思います。ひとがこの地球でほかの生き物と調和して同居していくためのヒントが、そこにたくさん見つかるように思えています。

木々も、同居仲間。木々と深く親しんできた文化がかつてあった、この「森の国」の住人として、もっと木々の声を聴けるようになりたいです。

「材」になる前、「モノ」になる前の木々と出会っていけたらいいな、と。。。

そして、「モノ」を使う側だったところから、つくる側にまわってみると、それぞれのモノの声も、聴こえるようになります。どれだけの工夫と配慮と労力がそのモノに注ぎ込まれているかを、感じ取れるようになると、日常の奥行きが増すというか、何気ない暮らしの道具が、存在感を増してくれます。楽しいです。

■というわけで、グリーンウッドワークとは……

電力なしで手道具でできるから、「グリーン」。
生木(英語ではgreen wood)でつくるから「グリーン」。
お外で、森の中でできるから「グリーン」。

森の中に置かれた木製三脚スツールと、木の枝のハンガーにぶらさがっている木製カップと布製の木工道具入れ
森で木削り

まさに、ぐりとぐらが、暮らしの中で、森へ出かけてやっていそうな手仕事なのです。

(ただし、刃物の使い方には、十分注意を払いながら……)。

 


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