「ぐりとグリーンウッドワーク」的きほんの「き」です(自分への覚書きでもあります)。 別ページにも書きましたが;

刃物、とくに鋭利に砥いで使う木工用の刃物は、ひとつ間違えるとけがをします。シンプルな手道具の刃物は、手に取って 直感的に使い始めることができてしまいますが、安全に楽しく使えるようになるには、ふさわしい使い方を学ぶことと、繰り返しの練習が肝要だというのが私の実感です。

ぐり と グリーンウッドワーク

木工経験ゼロでグリーンウッドワークに飛び込んだ自分の経験から、まったく初めての方が、バイスなしで(身ひとつで)ナイフで生木の木削りをするときに知っておくといいかな、と思うことを、書いてみました。(木工経験のある方には当たり前のことかもしれませんが……)。

ナイフが切れるのは刃をスライドさせたとき
全身を使って材を安定させて
ナイフの動きを逆の手でナビゲート
材を離れた後の、刃の軌道を意識
刃に近いところを握って、 刃は材に押し付けて  
大きい削り細かい削りを使い分けて
なるべく長いストローク
焦らず心穏やかに、プロセスに意識を向けて
ナイフは切れ味よく木削りに適したナイフで!

① ナイフが切れるのは刃をスライドさせたとき

刃は、まっすぐ押し進めるよりも、横にスライドさせることで切れます。刃の全長(根元→先端、あるいは先端→根元)に渡ってスライドさせていくメージで削りましょう。

スライドさせずにまっすぐ押し切るのもできないことはないけれど、力が要るのでじきに体が疲れてしまいます。スライドさせてスライスするように削ると、力も少なくて済み、切削面もきれいになります。

想像してみてください:ナイフの刃をただ皮膚に押し当てても切れませんが、そのまま1ミリでも手前に引けば、スパッと切れます。スライドすることで切れる、ということを覚えておきましょう。

全身を使って材を安定させて

人間の体のつくりとして、削ろうとしている材が安定していると、十分に力をこめることができて、その力が材に伝わって効率よく切れます。

材を持った手を空中に浮かした状態で削ると、安定させるための力と削るための力が両方必要になるので、体は2役担おうとがんばることになり、非効率なうえ疲れやすくなります。

バイスなどの固定具を使わない、身ひとつでやる木削りでは、材を持っている手、または材そのものを、常に体のどこか(胴体やひざ)に当てておくか、はつり台に当てておくことで、材を安定させます。

(ナイフを安定させておいて、材のほうを動かして削るときは、ナイフを持っている手を体に当てて安定させます)。

材や手をどこかに当てて安定させるときは、上腕(肩からひじまで)をなるべく体の側面につけておくとさらに安定がよくなります。脇をしめて、上腕を胴体でサポートしましょう。

直感的にナイフを使い始めるとき、よくありがちなのが、体の前の空中に両手を浮かして削る削り方です。これだと手にも材にも支えが十分得られません。早い段階から、木削りは「全身でやること」だと認識して、「手または材に支えがある状態で削る」習慣をつけておくのがおすすめです!

ナイフを持っている手を、逆の手でナビゲートしてあげると、力をこめつつも刃の動きをコントロールしやすくなります。

ナイフを持っていないほうの手の指を、 刃の背中(峰)、あるいは、ナイフを持っている手指に添えてあげます。細かいところを削るときは、ナイフを持っている方の手よりも、むしろ逆の手からの力を大きくしたほうが、コントロールよく削れたりします。

ナイフの動きを十分コントロールできることが、身の安全のためにも、きれいに削るためにも、とても大切です。勢いあまって刃がよからぬ方向へ行ってしまうことのないように……。ナイフを持っていないほうの手には刃の動きを導いたり材を動かすことで削りを助けたりする役割があると覚えておきましょう。

④ 材を離れた後の、刃の軌道を意識

材を貫通したあとの刃の進む先には、何もないように気を付けましょう。力を込めて削ると、刃の勢いは、材を離れた後に加速します。その先に指や手や脚があったり、ほかの人がいれば、ケガのもとに!

まず十分な作業空間を確保して、すぐ近くに人がいないことを確認しながら削りましょう。

座った状態で、両脚の間で削るのは危険です。胴体を少しひねって、必ず腿の外側の空間で削りましょう。

常に刃の軌道の先に何があるかに気を払って、今自分がしている(しようとしている)削り方の場合、刃の軌道がどうなるかを見極めてから動かしましょう。

材をはつり台に当てておいて、材から離れた後の刃の動きを、はつり台で受けて止める、というのも安全な方法です。

ナイフグリップによっては、体の構造をうまく使うことで、材を離れた後の刃の動きにおのずとストッパーがかかるようなものもあります(この場合は自分の体の部位が軌道圏内に入っても大丈夫です)。

side note: バイスなしで身ひとつでやる木削りでは、削りたい箇所によってさまざまなグリップを使い分けることが必須です。ナイフグリップには十数種類あり、本や動画、講座で学ぶことができます。「ぐりとグリーンウッドワーク」的おすすめの本・動画を、少しずつ資料室にあげておきます!

⑤刃に近いところを握って、 刃は材に押し付けて

力が効率よく刃に伝わるように、ナイフを持つときは、なるべく刃に近いところを握りましょう。最初は少し怖いと思うかもしれませんが、刃に近いところの柄を握ると、柄の下の方を握るよりもむしろ、削ったときに手の中で柄が暴れにくく、より安全です。

そして、常に刃をしっかり材に押し付けながら、削り進めましょう。刃を進める方向がどうであっても(向こうでも、 手前でも、 回転させるのでも)、これは同じです。

材に対して刃を押し付けると、刃のしのぎ面全体が支えとなってナイフが安定するので、効率よくきれいに削れます。

大きい削り細かい削りを使い分けて

大きく削り落とすためのグリップ(パワーグリップ)と、丁寧に繊細に削るためのグリップ(ファイングリップ)、というふうに、ナイフグリップは大きく2種類に分かれます。自分が今どちらの削りをやっているのか、自覚しながらやってみることがおすすめです!

ナイフに慣れるまでは、最初から思い切って大きく削り落とすのがちょっと怖い場合もあるかもしれません。でも 、おおまかに粗削りしていく段階 から、繊細な削り方で取り組むと、長く時間がかかってしまいます。

削ること自体を愉しむにはそれもいいのですが、あまりに長時間になると、くたびれてきて集中が下がってしまいます。そんなときにはケガも起きやすくなってしまうので、できるところでいいので、大きい削りにもチャレンジしてみましょう。

大きい削り・細かい削りのメリハリをつけて作業を進めましょう。

side note: あまり長時間削り続けないで、途中でティーブレイク、コーヒーブレイクを入れましょう! ケガの予防のためには休憩は大切です。自分の体力・集中力を過信しないようにしましょう。登山する人が、どんな低い山でも「山を舐めちゃいけない」というのとおんなじです。でもつい夢中になってしまうものなので💦ひとりで削るときには休憩時間を知らせるタイマーをかけておくといいかもしれません。

⑦ なるべく長いストローク

削っているモノ・箇所にもよりますが、なるべく、ちまちまと削っていくのでなく長いストロークで削っていくことを心がけましょう。

削る面のでこぼこを早い段階でならしていって、滑らかな面をスーッと長く削りつつ、少しずつ薄く・細く仕上げていくと、効率よく削れるうえ美しい切削面を実現できます。刃の全長をたっぷり使って、薄く&長く削っていきましょう。 長い、くるんとした削りくずを出せるなかなー?とチャレンジしてみましょう。

side note: 削っている場所によっては、 ひと削りひと削りの削りくずを、最後まで切り離さずに、材につけたままにしておくのも有効です。長いストロークでだんだんと薄く・細くしたいときなど、くっついたままの削りくずがストロークの到達地点を定めてくれるので、ストロークの終わりに勢いあまってよからぬところに刃を当ててしまう、ということがなくなります。

焦らず心穏やかに、プロセスに意識を向けて

以上のポイントを押さえながら、安全に効率よく(=楽しく)木削りするための、何よりも大事なポイントがこれです!

木を削り出すと、つい夢中になってしまうし、楽しいのでどんどん、次はここを削って、その次は……と、はやる気持ちも出てきたりします。

おすすめなのは、たった今削っているところの、削り味を味わって、なるべく「いま・ここ」の中で削っていくことです。スピードの速い遅いは気にせずに、樹との対話を楽しんで、今削っているところの色味や香り、繊維の流れ(木目)を五感で感じ取りながら、削り進めましょう。

(とは言っても、あまりにスピードがゆっくりすぎると、材の乾燥が進むにつれて生木特有の割れが生じるリスクもあるので、粗削りの段階はサクッっとすすめられれば、安全ではあります!)

粗削りしたものをゆっくり乾燥させた後にやる、仕上げの段階の削りでは、特定の方向に削ると美しい切削面が出る、樹にとって「この方向に削ってもらえるとうれしいな」という方向があったりもします。感触は樹種によっても違うし、個体によっても違うし、削っている場所によっても違うので、それを見つけていきましょう。

「とにかく削れれば何でもいい」という感じになって目的に突っ走るのでなく、ひと削りひと削りのプロセス=手段に、より多くの意識を向けましょう。上に挙げた7つのポイントを押さえつつ、プロセスを踏んでひと削りずつ進むと、 きれいな切削面、ケガのない作業といった、 すてきな結果がおのずと得られます

⑨ ナイフは切れ味よく木削りにふさわしいナイフで!

最後になりますが、これもとても大事なポイントです。安全のために、ナイフは切れ味よく保ちましょう。切れないナイフで無理やり力を込めて削るのは、材から離れた後の刃が勢い余ってよからぬところへ行くのでとても危険です。なにより、切れ味が悪いと、楽しくありません……💦 

よく切れるナイフなら、特に生木が相手のグリーンウッドワークでは、それほど力を込めなくてもスラスラ削れてコントロールがきくので、安全です。

刃先はデリケートだということも覚えておきましょう。鋭利に砥いだ刃先は、石やほかの刃物など、硬いものにコツンすると、すぐカケたり鈍ったりしてしまいます。使わないときは、その都度ナイフを鞘に納める習慣をつけるか、木製の台の上などにキープしましょう。

安全のためにも、ナイフは足元や床の上に置かないようにしましょう。

(もしサンドペーパーを使って仕上げる場合は、ペーパーをかけた後にまたナイフで削ってしまうと、ペーパーの粒子のおかげでナイフの刃先が鈍るそうです。 「ぐり と グリーンウッドワーク」ではサンドペーパーを使わずに仕上げているため、実体験がないのでよくわかりませんが💦念のためお気をつけください)。

そして、気持ちのよい削り味、美しく滑らかな切削面のためには、キャンプ用やサバイバル用など別用途のナイフでなく、ウッドカービング用ナイフがおすすめです。刃の厚みや幅や長さ、しのぎ面の角度、鋼のクオリティや刃全体の柔軟性などが、木削りのものづくりに最適になるよう考えられています。「ぐりとグリーンウッドワーク」的には、最初の1本としては、価格も手ごろな モーラナイフ(Morakniv) 社のウッドカービングシリーズから、「106」や「120」をおすすめします。

木削り向きのよく切れるナイフで、心穏やかに、焦らずゆっくり、削り進めましょう😊

side note: 鋭利なナイフはちょっと皮膚に当たっただけで切り傷になったりします。服装は基本、長袖・長ズボンで。そして慣れるまでは、DIY用・軽作業用・精密作業用の手袋(滑り止めつき)や指サックなどで手指を守るのもおすすめです!削りくずの散らかりをなるべく抑えつつ衣服も守れる、厚手のエプロンもおすすめです。


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