手削りしたカトラリや器の仕上げに使っている、くるみ油・えごま油・酸化処理済あまに油の「硬化にかかる時間」の検証実験について、過去に書いたことがありました

あれからも少しずつ、つくったものを日々使ってみながら、仕上げについての模索を続けています。これまで乾性油、拭き漆、みつろう、ウレタン塗料、浸透性ウレタン塗料、エッグテンペラなどを試してみました。

違う仕上げを試すなかで、自分のつたない理解も少しずつ深まってきました。

ウレタン塗料はどれもテカテカに仕上がると思い込んでいたので、浸透性ウレタン塗料を使ってみて木肌の感触がそのまま保たれることに驚いたり。

そこから、かつては乾性油を塗ってカトラリ表面に「塗膜をつくる」という言い方をしてしまってたことのあやまちに気づいたり。(木材に塗布すれば、オイルは当然浸みこんでいくので、浸み込んでそこで硬化し耐水層をつくる、というのがふさわしい表現でした。表面に膜を張るわけではないので、ニスやラッカーのように剥がれたりしません。オイル仕上げは剥がれることなく、普通に日々水洗いして使える耐水性が保たれることは、実感で知っていたのに、「塗膜」と言う言葉をつかってしまってことを反省……。)

それから、あまり大量にオイルを塗布してしまうと奥に浸み入ったオイルが酸化しずらくなるので、薄塗りの重要性を再度認識したり。

学びとトライは続いています。

■ミルク煮仕上げにトライ

仕上げについて自分が大事にしているのは、機能性(耐水性)、耐久性、環境に優しいこと、人体への安全性、最終的な手触り・臭い・色味、塗装作業のしやすさ、乾燥時間などなんですが、個人的には、全部を◎で満たす仕上げ方法にはまだ出会えてないです…。

総合的に見て今のところ一番好んでいるのは、天然(食品レベル)の乾性油で、日常生活で普通に水洗いして使える十分な耐水性が得られて、環境面で心配のないところが気に入っています。

ただ、耐久性については数カ月~年に一度のお手入れは必要だったりするのと、あと、塗ってからしばらくすると本来の木の色よりも黄色味が増してきます。くるみ油もえごま油もあまに油も、黄色味が増すなあと、これはつくってから年月の経ったものたちを眺めても確認できます。

で、この夏、かねてから気になっていた、北欧に伝わる昔ながらのやり方、牛乳の中の成分である「カゼイン」を使って仕上げる方法を試してみました。

結論からいうと、耐水層の耐久性の検証(日常で使い始めての検証)はこれからなんですが、仕上げてから5カ月経ってもまったく黄色くなる気配がないことがわかりました。

同じサンショウの枝から同時期に削った、薬味スプン2つ。左がミルク煮仕上げ(本来の木のの色味のまま)、右がくるみ油仕上げ。

■手探りでのミルク煮実験

心の師、ヴィッレ・スンクヴィスト氏の著書『Swedesih Carving Techniques』の「仕上げ」セクションで、「昔ながらのやり方」としてひとことだけ紹介されていた、ミルク煮仕上げ。「2~3時間、牛乳の中で煮るだけです」「耐水性のある水性塗料や接着剤に使われたりしているカゼインが、材に吸収され、材を保護し劣化を防ぎます」とだけあります。

いつか試してみたいと思っていたこの仕上げを、この夏実際にやる気になったのは、温めた牛乳に割れた陶器のお皿を浸しておいたら直せた、というYouTube動画をたまたま見たのがきっかけ。

これほんとかな?と思い調べていくと、この記事に行き当たり、なるほどと思い……。

さらに、この動画などから、カゼインから生分解性プラスチックがつくれることも知り……。

さらにこの論文を読んだら、「日本では、大正から昭和初期にかけてカゼイングルーによる合板が広く用いられた」とあり、構造用接着剤としての耐久性については「屋内や保護された屋外では30年経過しても接着強度の低下をほどんど示さず、温度や湿度を任意に変化させた環境下でも良好な接着性を示す」という研究報告があると知り……。使用済み電柱からの挽板(=廃材)を用いた研究で、接着強度はポリ酢酸ビニル樹脂(いわゆる白い木工用ボンド)と「ほぼ同等」との結果も報告されていると知り……。

カゼインのポテンシャルに心が動かされ、トライしてみることにしました。

しかし接着剤や絵画塗料と違って、ヴィッレさんが書いていた「昔ながらの仕上げ方法」は、本当にただ牛乳の中で煮るだけ。割れたお皿の接着法だけが、このシンプルさに匹敵しました。

グリーンウッドワーク界隈でミルク煮仕上げの実践経験を探してみたら、Sylva Spoon Woodowrkingさんのサイトで、ミルク煮仕上げの記述を見つけました。ここで、脂肪分のないスキムミルクを使うことがポイントだと知りました。

煮る時間は、Sylva Spoonさんは「2~3分」、一方ヴィッレさんは「2~3時間」。割れたお皿の接着法を研究されていた「接着の専門家」の方は「1時間」(ただ、陶器のお皿の割れ目にに牛乳が浸み入るのは無塗装木製品より時間はかかると思われます)。

もうこれは実験しかない、と思いました。

■とりあえず小さなアイテムばかりで試してみました

実験①:「沸騰直前の温度で30分」煮る➡「30分そのまま冷ます」➡取り出して拭き取り、網の上で乾燥。ヴィッレさんレベルの時間をかけてみる実験です(サイズが小さいので時間を短縮しました)。

実験②:「沸騰直前で6分」煮る➡「1時間半そのまま冷ます」➡取り出して拭き取り、網の上で乾燥。これはSylva Spoonさんレベルの時間でやってみました。煮る時間が短いので、その後の浸し時間を長めにした。

Sylva Spoonさんはミルクピッチャーをミルク煮仕上げげしようとして、煮ている最中に割れが入ったことあったと書かれていたので、大丈夫かなと思いましたが、実験①②ともに割れはありませんでした。

乾かした後には、表面の毛羽が少し立った感触があったので、小石で磨いてバーニシング。

乾燥後しばらくは牛乳の臭いがしましたが、やがてなくなり、5カ月経過した現在は無臭で、黄変もなしです。

表面の手触りはとてもしっかりしていて、頼もしい印象……。今のところとても好感度な仕上がりです。

そろそろ日常での使い心地検証を開始しようと思います。どうなるかな……? これについてはまたしばらく後に^_^

#カトラリの仕上げ
#オイル仕上げ
#ミルク煮仕上げ
#実験