グリーンウッドワークに初めて触れてから、この春で10年に…。長いような短いようなこの間、いろんなグリーンウッドワーカーの方々と出会う機会をいただいてきましたが、自分の原点でもあり指標にもなっているのはやっぱり、マイク・アボットさん。折に触れて、ふいっと思い出します。
あったかい笑顔とおおきなハグと。椅子づくり合宿のあとに駅まで送ってくださった車中で、「人前に出るのが得意でないので、ワークショップとかできそうもなくて…」と打ち明けたときに、ハンドルを握りながら、自分も森林レンジャーをしてた頃にスライドトークをする場があったんだけど、全然しゃべれなかったんだよ、でもこうして今はワークショップができているんだよ、と言ってくださったこと。
先日、コロナ渦にマイクさんが受けたインタビュー音源を聞いていたら(生木からものづくりをしている人へのインタビューシリーズ、Sloydcastのエピソード8)、車中で話してくださったのと同じエピソードに触れておられて。くだんのスライドトークはアシスタントの人がかわりに話してくれてなんとかなったけれど、以後かなり長い間、人前で話すことを避け続けたんだ、とおっしゃっていました。それくらい大きな出来事だったみたいでした。
でも、木でものづくりをすることを人と分かち合うようになったら、大丈夫になって、話せるようになったんだそうで、マイクさんも、木削りに助けられてきたんだなあと思いました。「やっていくとできるようになっていく」とおっしゃっていたことも心に残りました。
■マイクさんならではのグリーンウッドワーク
生木からの椅子づくりにおいて、細かなところでマイクさんならではのアプローチがあります。
まず、木目(木の繊維の流れ)に沿って削るところ。まっすぐな流れではない場合、流れに沿って削ってゆくとパーツが少しゆらぎを描くような形になることもあります。手仕事の味わいが残せるということや、繊維が通っていると強度が保たれるということの他に、マイクさんが自然のなりゆきに沿っていく道教に共感を覚えていることや、相方のステンドグラスアーティスト、タムジンさんからの影響があるそうでした。
木目に沿って造形するというアプローチは、「木を割る」という作業への関心にも直結していて。斧やクサビ、フロー(木割り専門の刃物)で木を割りながら、望む形に近づけていく作業の愉しさを教えてくれたのもマイクさんです。
木は必然的に繊維の流れに沿って割れていくわけですが、どう割っていくかで割れ方が変わってきます。繊維の流れが素直な木は、体積が均等になるように割ると、比較的まっすぐに割れ進みますが、体積に偏りがあるとどちらかへ反れていきます。もともとの繊維の流れにねじれがあったりするといわずもがな…。
そこで割れの進路を観察しながら、進路が反れ始めたらその側に圧をかけてそれ以上反れが進まないようにして割り進めたり。最初に割り始めるときに、体積が均等になる場所を注意深く見定めたり。割る前に繊維の流れをよく見極めたり。ちょうどいいサイズのフロー(マイクさんの「森の工房」には大小各種サイズのフローが揃っていました)を使ったり。
私ももちろん初めて木割りの作業をするときは思うように割ることができずに焚火用の薪を増やしちゃってましたが、徐々に望む形に近づけて割っていけるようになると、この作業に魅了されました。後で振り返るとドローナイフで削る作業と同じくらい、もしくはそれ以上に、フローで割る作業がおもしろかったなあという後味になっていました。
(このときの椅子づくりのようすはここに書いています。なつ(はず)かしや。)
木目に沿うアプローチについては、もうひとつ、「削る(shaving)」と「割る(cleaving)」の言葉を合体させた造語で「sheaving」とマイクさんが呼ぶやり方があります。これは、削り馬でドローナイフを使って削るとき、ドローナイフの使い方をちょっと変わえることで、「削りつつ割り落とす」「割り落としつつ削る」みたいなことになる削り方。やはり繊維の流れを活用していく方法で、作業の加速化につながります。
■グリーンウッドワークの分かち合い方も、ならでは
マイクさんはグリーンウッドワークの椅子づくりをメインに活動されてきていますが、椅子職人・椅子作家になることは目指していないとおっしゃいます。また、ご自身を「教える人」とも捉えていないのでした。
私がマイクさんの森の工房にいたときも、「自分やアシスタントは、みんなが自分の作りたいものを作るための情報提供者なんだよ、みんな、自分の好きなようにやってみていいんだよ、ただし自分でリスクを負ってね」とおっしゃって。「あなたは椅子づくりを教えてくれる”先生”で、われわれは”生徒”だと思ってましたよ!」とある参加者が言うと、「その”教育”概念は見なおしたほうがいいね!!」と大声で言って、おおらかに笑ってたのを思い出します。
マイクさんにとっては人と森を、人と木を、つなぐこと、それから「来た人に笑顔で帰ってもらうこと」が第一で。それでもって、楽しい時間を過ごした成果としての完成品のクオリティも、一生使えるクオリティになることを重視しておられていて。そこも尊敬してやみません。
私がマイクさんのところでつくった椅子も、確かに一生使えるクオリティで、既に9年と3カ月、毎日ヘビーに愛用し続けて今に至りますが、ずっと快適に使えています。アレクサンダーテクニーク教師として椅子にはこだわりのある相方が、とくにこの椅子を一番に好んでいていつもダイニングチェア/ワークチェアとして使っています。
森の中で寝泊まりしながら木を割って削って椅子をつくる、失敗や実験を楽しみながらあんなにも愉しく取り組む時間をくださりつつ、参加者全員に目と気を配って(木工もグリーンウッドワークも初めてで不器用だった私のこともさりげなくフォローして手助けしてくださって)、完成品が一生ものになるようそれとなくリードしてくださったこと、とても感謝していると同時に、すごいことだなあと感じます。
実にささやかな規模ながら、自分も木削り分かち合い活動をするようになって、マイクさんのすごさをひしひしと実感する日々です…。
■創意工夫を続けて、相手の人から学んでいく姿勢も
マイクさんの椅子づくりワークショップでは年々、工程にアップデートが重ねられていますが、そのインプットは参加者さんからのアイデアだったり、マイクさんと参加者さんとのあいだでのひらめきだったりするそうです。
かつてマイクさんの椅子づくり合宿のアシスタントをしていたことがある、生木からのスプン削りの達人バーン・ザ・スプーンさんが、少し前にマイクさんの自宅工房を四季折々に訪ねて語り合う動画シリーズをつくっておられたんですが、その中に、椅子づくりで使っているいろんな治具をマイクさんに紹介してもらう、という回がありました。
Lammas with Mike Abbott
The fifth in our 8-part series with Mike Abbott based around the sun calendar. We’ll be visiting Mike through the seasons to chat about woodworking, gardening and his philosophy. We joined Mike in late July to talk about contraptions and have a chat about what’s going on in his garden.
ひとつひとつ、「これは参加者の○○さんの発案で」など、関わった方々のお名前を出しつつ現在の形になるまでの経緯を話していたのが印象的でした。「〇〇なふうにやりたいと言い出した人がいて、えー、と思いながらもやってみたら、こういう発見があってね」「毎回学ばせてもらっているよ」などとおっしゃるのを聞くと、参加者の方たちと対等に関わって一緒に工夫を重ねながら取り組んでいる姿勢がよく伝わってきます。
マイクさん自身の発案の治具や手法ももちろんあります。でもそれらをことさらに言うことはなくて、むしろそれらが確立する過程で影響をくれた人・本について話してくださるのでした。
■暮らしの中で、環境のためにできることを
もうひとつ、マイクさんは緑の党の熱心なサポーターで、寄付をしたり、選挙のときにはチラシ配りなどもされているのでした。
マイクさんのかつての「森の工房」は、オフグリッドで寝泊まりできるようにテントや洗面台、焚火による調理場、コンポストトイレ、菜園などが設けられていましたが、現在のご自宅の工房も、屋根にはソーラーパネル、庭のそここに家庭菜園。暮らしの中で、環境のためにできることに当たり前のようにずっと取り組んできておられます。
自然に沿った暮らしの中にグリーンウッドワークがあることも、マイクさんのすてきなところだなあと常々感じています。
マイクさんのお庭工房での椅子づくりにも、いつかまた参加できたら……と願っています。木工について右も左もわからず、挙動不審なことも多かった私に丁寧に接してくださり、おかげさまで今も木削りに親しめていることへの感謝をお伝えしたいです。
そして10年目を迎えるにあたっての夢として、「リビングルーム工房」の中だけでやってきたところから、やっぱりお外の拠点を持ちたいな、と感じているこの頃です(原点回帰?)。果たして実現するか、まったく当てもありませんけども、まずは言葉にしてみることから……小さい勇気を出してみてます^_^
マイクさんのサイトはこちらです:https://goingwiththegrain.org/
毎年春~夏にかけて、椅子づくりコースを自宅のお庭にある工房で開いておられます。