先日、サティシュ・クマールさんについてのドキュメンタリー映画『ラディカル・ラブ』の手づくり上映会で、ワークショップ&おやつアワーに、プチ木削り体験で出店させていただいてきました。

サティシュさんといえば、18年前に読んだ著書『土と心と社会』が、私の人生を幸せな方向へと向けてくれた、心の恩人。来日されたときには会いにいって、本にサインをもらって、お話しして。(自分は本当に心から尊敬する人にだけ、サインをもらうという行動に出ます――これまでサインをもらったのは、台湾のタオ族の作家シャマン・ラポガンさん、イギリスのグリーンウッドワーカー、マイク・アボットさん、作家・画家・音楽家・心の相談員の坂口恭平さん)。

サティシュさんに最後にお会いしたあとは、教わったことを心に携えて自分の道をぽくぽく歩んできて、その後のサティシュさんの動向を追ってこなかったんですが、木削りセッションにきてくださっている(ま)さんから、「今度お仲間が上映会をするのです」と聞いて、びっくり。場所も、なんと隣町。

フラワーアレンジメントの先生でいらっしゃる(ま)さんは、サティシュさんのことは知らなかったけれど、お仲間からのお声がけで、上映会でドライフラワーを使ったカードづくりのワークショップ出店をすることにした、とのことで、なおこさんも出店に興味ありませんか、と聞いてくださったのでした。

■ワークショップ出店なんて自分には無理……と思ってました

イベント出店は、木削りアイテムの物販ならしてきましたが、ワークショップでの出店経験はないし(体験ワークショップ出店は、じっくり時間をかけて取り組むワークショップやマンツーマンセッションとはわけが違います)、ただでさえたくさんの人を相手にするのは神経がもたないほうなので、いえいえ私はいいです、でも映画は見にいきたいです!と即答しました。

そのまま1カ月くらい経ったころ、また(ま)さんからご連絡が。ぐりとグリーンウッドワークのチラシだけ、彼女のブースに置いてくださるとのことで、それでよいですか、出店はやっぱりしませんか、と改めて聞いてくださいました。

そのとき改めてその場を想像してみたら、なぜか、ちょっと興味が湧きました。「勇気」を出したわけでなく、興味が出た、それは自分にとってはなんだか画期的なことでした。

20~30分でできるプチ体験ワークショップを、とのことだったので、ちょっとメニューを考えてみ始めました。最初はハーフメイドのバターナイフを削って仕上げてもらうかなと思ったけれど、小枝ペン・小枝えんぴつが思い浮かびました。

自分の裡にあるアイデアや想いを、ペンやえんぴつで、手を動かして書いて・描いてみるという行為は、サティシュさんのいう「ひとは誰もが創造性をもった特別なアーティスト」という世界観と通じ合うような気がしました。

ワークショップ出店という初めての試みに不安はありつつも、サティシュさんの映画を見た人と共有する場なら、安らかにやってみれそうな気もしました。

上映会の主催者の小俣成子さんに、会場で刃物を使って大丈夫かを確認していただいて、出店者のみなさんのお仲間に入れていただくこととなりました。

■安全面を第一に考えて

刃物の安全面についてはいつも第一に考えているので、そう広くない会場にいくつもブースが並ぶといった場で、各ブースは会議机1台の広さと聞いて、いつものモーラの木削り用ナイフは避けることにしました。

削っている時に常時身の周りにたっぷり空間を確保してもらえるか(人の往来が流動的かどうか)、削っていないときに(手狭な机の上で)ナイフを都度シースに収めてもらえるか、そのあたりを考えました。

かわりに、木削りセッションに来てくださる初めての方向けにときどきお勧めしている、安価だけれどなかなか使い勝手のいいオルファのクラフトナイフを採用することにしました。オルファはネジで刃渡りの長さが調節できるので、今回のように小さな範囲しか削らない場合は、小さく刃を出しておけばいい。持ち手にフラットな面があるので、机に置いた時の安定がいいのも魅力でした。

オルファのクラフトナイフで、親指押し削りで削ってもらいました

ほんとうならモーラの木削り用ナイフで、いろんなナイフグリップを体験してもらいたいのですけど、20~30分のプチ体験ではそれだけでタイムアップです。なので、たいていの人にとってなじみのある「親指押し削り」だけでものづくりができるような工程を考えました。

■材料や工程を考える愉しみ

とりあえず小枝ペン・小枝えんぴつを、自宅の「猫の額庭」からの冬の剪定枝から試作してみたらば、作るのも使うのもとても愉快でした。まるでただの枝なのに、筆記用具なのがオツです^_^

さらにペン・えんぴつのボディの樹皮を削って装飾を入れても愉しい。試みにトップに小鳥の飾りを取り付けてみたら、思いのほか愉しい使い心地になりました。

試作したサンプルたち

つくる人がクリエイティブになれる余地をつくりつつ、ちゃんと使えるものができあがるように、しかも20~30分で仕上がるように、試行錯誤を重ねて工程を考えていきました。

この試行錯誤の期間が、一番楽しかった……。シンプルな構造だけれど、ちょこちょこと工夫が必要な点が出てくるので、都度、解決していきました。

たとえば、小枝に芯を入れる穴を開けたあとに、ペン先を細く削るとき、樹種によっては中心付近に髄が占める割合が多くて、もろもろと崩れてしまい、ペン先をうまく尖らせることができません。うまく尖らないと、ペン先の揺れの原因になり、書き心地に影響します。

書き心地は大切にしたいので、木固め剤を使って髄にもう少し強度を持たせる方法をとりました。一本一本木固め処理をするのは手間がかかりましたが、するとしないでは違うな、と思いました。

(書き心地の点では、さらに、なめらかな書き心地になるよう、油性インクではなくゲルインクに近いインク芯を選択しました。)

肝心の小枝は、わが家の「猫の額庭」のアカメガシワ、センダン、トウネズミモチ、モッコクの剪定枝のほか、この冬からお手入れボランティアに参加させていただいている近所の森で、ケヤキとサクラが自然に落とした小枝を拾ってきました。

小枝に芯を入れられそうな場所を見繕って木取りし、穴を開けたら、菌・虫対策として数日間冷凍しました。

枝には樹種ごとに違う色のマステで印をつけました(樹種を見分けるマステは、それぞれの枝の芯穴の深さがわかる位地に巻きました)。

■小枝ペン・小枝えんぴつのキャップづくり

物販出店もそうですが、ワークショップ出店も、持ち帰ってもらうときのことを考えに含めなくてはなりません。小枝ペンは、キャップをはめないと持ち帰るときにペン先が他のものを染めてしまう。

キャップのサイズは小枝の太さにマッチしないといけませんが、小枝の太さはまちまちです。その場でぴったりのサイズにつくってもらわないとですが、果たしてプチ体験の短い時間内にキャップまでつくれるのかが問題でした。

どんなキャップならサッと簡単につくれて、それなりに丈夫で長く使えるだろう?インスピレーションを探してYouTubeをちょっと見て回ると、この動画を見つけました。tintinonairさんという、学齢の子がやっているとおぼしきYouTubeチャンネルの動画です。

これを参考に、紙を巻いてキャップをつくる方針が定まりました。

小枝ペン・小枝えんぴつのサイズに合わせてつくった紙キャップ

紙といえば、いつも好んで使っているのが使い終わったカレンダーの紙です。特に星野道夫さんのカレンダーの紙は、美しい自然の色合いそのままで、よいのです。もうひとつ、おおくぼひでたかさんの絵のカレンダーも、色使いがすばらしくて。この2種類の紙でキャップをつくってもらうことにしました。

キャップづくり用のカレンダーの紙は帯状にカットして用意しました

tintinonairさんの作り方では、紙をキャップ状に巻いたあとマステでぐるりと留めつけるのですが、紙の色を活かしたいので糊で留めることにしました。巻く前の紙のどこに糊をつければいいか、巻いたあと上端の隙間はどう閉じるかなど、細かい工程を、なるべくシンプル簡単になるように考えていきました。

■ペンのトップに小鳥をとまらせる

デザインバリエーションの1つ、トップに取り付ける小鳥の飾りは、デンマークのFrank Egholmさんのシンプルな小鳥の削り方を参考に、これをうんと小さくして、削りのステップを私なりに整えました。

時短のために、迷わず削り進められるよう、マステを使って削り位置が一目でわかるように工夫してみました。

小鳥の取り付けは、金属は避けて、木のピンで繋ぐ形にしました。廃棄するとき、ペン芯さえ抜けば、あとは全部自然に帰るように。

ご自分で小鳥を削って取り付けてくださった方の、かわいい「小鳥ペン」^_^

小鳥削りだけでなく、ほかの工程でも、削る位地にマステを使って印をつける、というのを今回は多用しました。マステは思いのほか便利です。円柱上の枝にぐるりと印をつけたいとき、線の最初と終わりが出会うように印づけするのが簡単。マステを巻いてそこに墨線を引いて、マステの上から削るといった使い方もしました。

マステで削り始めの位置を印づけ

枝にインク芯を入れやすくするために、芯穴はインク芯よりほんの少し大きく開けたのですが、そうするとペン先が少しぐらつくという問題が出ました。これも、そうだマステを巻いて太らせてみたらどうか、と思い立って。マステのおかげで解決できました^_^

■工程プリントづくり・道具づくり・作業エリアづくり

小枝ペン、小枝えんぴつ、トップの飾り(小鳥/玉)、キャップ、4種の工程プリントをつくりました。プリントを見て各自進めてもらえるように。

実際につくってもらうときのシミュレーションをしていくと、こんな道具があったらいいな、というのが出てきて、3種類の道具をつくりました。芯を入れる穴の深さをチェックする「深さチェッカー2種」(ペン用とえんぴつ用)と、ペン先の削り位置がすぐわかって、ペン先に巻くマステもちょうどいい長さに測りながらカットできる「メジャー兼マステカッター」です。

自作のシンプルな道具たち。深さチェッカーは机の上で転がらないよう、枝分かれしてる部分を残しました

道具を考えてつくっていくのも、楽しかった……。

あとは各自の作業エリアをどうするか、でした。カッター用マットを新調して各自に用意することも考えましたが、家にあるものを活用できないかと見回すと、物販出店時に什器として使っていたコルクボードの額縁が4枚見つかりました。

コルクなので作業マットになってくれて机を守れそう、と思いました。しかも額縁があるので、内側に落ちた削り屑は簡単にゴミ箱に入れられます。コルク額の裏面をしっかり補強してから、買い置きしてあった滑り止めマットを裏面につけて、ぐらついたり滑ったりしないようにしました。

不要な裏紙でつくったメモパッドを、コルクの上に置きました。キャップをつくるときの糊付けや、出来上がったペン・えんぴつの試し書きを、このメモパッド上でやってもらえば、次の人が作業する際には一番上の紙を1枚捨てるだけでよくなります。

当日の各自の作業エリア

コルク額は、それぞれの方がつくった小枝ペンや小枝えんぴつを記念撮影させていただくときも、ちょうど額縁の役割を果たしてくれたので、そこもよかったです^_^

当日生まれた、かわいい小枝ペンの1つ(ほんとは皆さまのを記念撮影したかったです)

削り屑やメモパッドの紙を捨てるゴミ箱は、各自に1つずつ、ちいさなゴミ箱を用意しました。カレンダー紙で箱を折ってつくったので、搬入・搬出時は小さく折り畳んでおけて、軽いし便利でした。

ワークショップ出店時は紙製ゴミ箱(左下)のほか、サンプルボードも用意しました

■当日は……バタバタ、でも楽しくつくっていただけました^_^

参加くださった方々は、皆さま楽しそうに取り組んでくださり……

できあがった小枝ペン・小枝えんぴつは、どれも想像を超えるかわいさで……!幸せでした^_^(それぞれの方のプロセスに丁寧に寄り添うのは、なかなかにチャレンジで、私は焦ってバタバタしちゃってましたが💦)

小枝えんぴつは、芯を入れるときに芯が折れてしまうというアクシデントもあって、工程にもうひと工夫が必要そうだなと反省しました。でも、やっぱりかわいかった!

みんな、暮らしの中で愉しく使っていただけるとよいなあと思いました。

バタバタして、他の出店者さんたちのブースを覗きに行けなかったのが残念でしたけれど、自然素材を使ったアートづくり、看板づくり、カードづくりなどなど、どのブースも穏やかな存在感で、のどかな村の市のような雰囲気でした。きっとどこも楽しかったんだろうなあと思います。

今回の機会をくださった、上映会主催の小俣さん、ご一緒したスタッフのみなさま、当日心強くサポートしてくれた相方、協力してくれた木々の皆さま、そして何より、ご縁をくださった(ま)さん、どうもありがとうございました〇