この夏、削り馬をもう1台つくりました。きっかけは、うちの奥の部屋と繋がっている隣棟に住んでいる大家さんが、大きな音には気を付けてくださいね、と言ってくださって、斧での木割り・ハツリの音や振動の大きさを自覚したこと(手前の部屋でやる分にはさほどご迷惑になっていないと思ってしまっていました、申し訳ない気持ち)。
削り馬のほうが静かだから、普段の木削りにも木削りセッションにも、もっと削り馬を取り入れようかな、と思ったのでした。
同じ理由で、都市部でグリーンウッドワークを愉しむ方にとっても、もしかしたら削り馬は合っているのかもしれない、とも感じました。
そんなとき、秋にあった「さじフェス2024」で、北海道のグリーンウッドワーク仲間の草刈万里子さんが「削り馬で削るスプーン講座」を担当されると聞いて、参加させていただくことにしたのが、もうひとつのきっかけに。
いつも斧とナイフがメインで、削り馬はスツールや子ども椅子のパーツづくりにたまーに使う程度だったので、グリーンウッドワークを始めて一番最初の頃につくったひょろひょろの削り馬でもまあ十分でした。
しかし、木削りセッションでほかのひとにも使っていただくなら、もう少ししっかりしたものをつくろう、と思い立ちました。
生木の木工でない(普通の乾いた)木工は、寸法をきちんと測って正確に、という世界でだいぶんニガテな作業でしたが、少しずつ数日かけて進めて、手道具だけでわりと楽しくつくれました^_^
(使った刃物はノコとナイフと手回しドリルと彫刻刀)。
大きな原木とはご縁ができづらい関係で、既製品の板材・角材を使わせていただきました。
使い始めて3カ月あまり経ち、なかなか気に入っています。前のよりうんとどっしりとしてくれて、削り馬としても、ノコでちょっと切るときのバイスとしても、それからプチ作業台としても、斧を使っているときの一時置き場としても、使い勝手がなかなかグーです。
ということで、またつくるかもしれないときのために、記録を残しておこうと思います(ちゃんと思い出せるといいな……)。
1.デザイン選びと設計
一番時間をかけたのが、削り馬のデザインリサーチと寸法の検討でした。
やっぱり今回も、昔ながらのシンプルスタイルがいいな、と思いました。
久津輪雅さんが考案された「折り畳み式」の削り馬もいいな、と思うのですが、リビングルームの一角でやっている自分には、リビングにいつもおいてあってもいいデザイン(ペダル部分をはずしたら、ただのベンチ、もしくは超スリム型サイドテーブルになる)で、なおかつ、ばらせばこそっとしまいやすいデザインが都合がいいです。
(久津輪さんの折り畳み式は、車をお持ちのグリーンウッドワーカーさんが、講座で8~10人分とかの削り馬を会場に運び込んで設置するにはとても向くと思います! 運びやすさ・組立のスピーディさが魅力です。)
シンプル系削り馬のいろんなデザインをネット上で見てまわって、最終的にHomestead Craftsmanさんの削り馬をベースにしようと決めました。ベンチの脚がテーパーほぞで簡単に外せるところ、ペダル枠も簡単にばらせるところ、シンプルな佇まい、傾斜板の高さを手間なく自在に変えられるところ、が気に入りました。
パーツの大きさは自分に合わせてひとまわり小さくしました(削り馬1号のサイズも参考に)。ペダル枠を外してベンチとしても使いたいので、脚はベンチ上面まで貫通させないデザインに変えました。
Shaving Horse Design – In depth review!
Article on making this shaving horse- http://www.greenwoodworking.com/ShavingHorsePlans Hello fellow woodworkers, I’ve been getting some requests to show my shaving horse, so here it is. It’s a tool used in combination most commonly with draw knives and spoke shaves, it’s basically a foot operated vice. Mine is made from oak with cherry legs.
2.材料あつめ
木工のことを本当に何も知らずにつくった削り馬1号は、本体がSPF材で軽かったので(軽さのおかげで、青空市の出店時のテーブルとして、電車&徒歩で持参するにもラクでよかったのですが)、安定がもう少しあるほうがいいな、と今回はヒノキにしました。
近くのホームセンターでヒノキの厚板(38×140×990㎜)を2枚買って、自転車で持ち帰りました。
ホームセンターまでの道すがらにある、地元の工務店さんがときどき出している「ご自由にどうぞ」材のなかに、しっかりした角材を発見。重さもあって、聞いてみると「たぶんヒノキ」とのことだったので、これをありがたくいただいてきて、ペダルパーツに使うことに。
ペダル枠の上辺にくるパーツは、削り馬1号とおなじく、丸棒にしたかった(ここを握って全体を持ち上げるときに楽でした)ので、強度が比較的あるケヤキ(近所の街路樹だったケヤキの剪定枝を数年乾燥させてあったもの)を。
脚は、わが家の猫の額庭のセンダンの剪定枝と街路樹だったケヤキの剪定枝(数年乾燥させてたもの)を。
3.本体のベンチ部分づくり
ペダルを外せば、ただのスリムベンチになるようにしたいので、今回は3本脚でなく、4本脚に。ヒノキの厚板2枚のうちの1枚を、そのまままるっとベンチ本体にしました。
① ヒノキ板の厚みが38mしかないので、脚をしっかり挿せるよう、脚を挿す部分に厚み増しパーツを。ヒノキ厚板のもう1枚から厚み増しパーツをとって、穴あけの位地決め。
② ①で墨付けした厚み増しパーツをノコでカット→ 縁周りをナイフで面取り→ ベンチ本体裏に配置。
③ ②をベンチ本体裏にボンド貼り→ Φ2.8㎜のドリルで下穴を開けてから木ネジで固定。
④ 自由スコヤを70度の角度に固定して立て、これを目印にΦ24㎜のドリルで斜めに(墨付けした△の頂点に向かって両側から斜めに)ほぞ穴開け(深さは斜めになったほぞ穴の浅い方で60㎜、深い方で70㎜)。4本脚が四方に末広がりになって安定性が高まるように。(厚さ増しパーツを留めたネジは、斜めにほぞ穴を開けたときに当たらない位地にするよう気をつけました)。
⑤ ④で開けたほぞ穴をテーパー化。穴のまわりに、5~6㎜幅に固定したコンパスをつかって帯を描き(外側に円が描かれる)→ナイフでその線まで穴を広げる(このときいつもの木削り同様、木目を聴いて。円のどこのあたりを削るかによって、繊維を起こさない方向にナイフを入れて)。
⑥ ほぞ穴の奥のほうもナイフでテーパー化して、穴の側面をまっすぐに均して(木目を聴きながら)。
⑦ 脚にテーパーほぞ付け。脚の先に、ほぞ部分の長さ(70㎜)+ほぞの肩部分の長さ(30㎜)をまず円柱化(ほぞ穴の最大径のΦ30㎜で) → ほぞの木口にΦ24㎜の円を描く→ 内側の円まで斜めに削っていき、ほぞをテーパー化。
⑧ ほぞ穴の中をチョークで塗り、脚を打ち込んでから抜いて、色づいたほぞの部分をナイフで削りとっては、また挿してみて、ほぞ全体にチョークの色が均等につくまで微調整を繰り返してフィット感アップ。
ナイフ1本でのほぞ穴とほぞのテーパー化は、バーン・サ・スプーンさんのメンバーシップクラブにて教わりました、感謝♡
⑨ 4本の脚がしっかり挿せたら、ひっくり返して水平な場所に立たせ、水平器を載せてベンチ表面の水平を取りつつ脚の高さを調節(脚の下に何かかませるなどして)→ 脚を切る位地に印付け(切りたい高さ丁度になるように、端材の角材に片面をひらたく削った鉛筆をマステで留めて、ぐるりと墨付け)→ 脚を外して1本ずつノコでカット。
⑩ ベンチの高さ(上面まで)は495㎜になりました。削り馬としてちょっと高め。でもベンチとして低くなりすぎない高さを選びました。ベンチ部分の鋭い縁をナイフで面取り。
4. ペダルパーツづくり
① ペダル枠の両サイドを構成する部材(33×44㎜のヒノキ角材)をカット。ベンチの高さを鑑みて長さ680㎜×2本。
② 穴あけ。①の角材を2本重ね(その下に端材を挟んで)、テーブルにクランプ → 両端(ペダルの位地と押さえバーの位地=両端から60㎜のところ)にΦ24㎜の穴開け。まっすぐ開けることが肝要なので、スコヤと鏡と水平器に頼りました。
③ペダルづくり。同じ角材を長さ380㎜にカット → 中央に、ベンチの幅+1~2㎜だけ角材のまま残るようにして、その左右両側をΦ24㎜の円柱に削り出し(両端の木口にΦ24㎜の円を描いて、中央の角材のまま残す部分の位地にノコで切れ目を入れて斧で割り落とし、ナイフでなめらかに整えました)。
④ 押さえバーづくり。③と同じ要領で、ケヤキの枝を中央にベンチの幅+1~2㎜だけ太く残るようにして、その左右両側をΦ24㎜の円柱に削り出し。押さえバーは、枠の幅とジャストサイズな長さに。
⑤ ベンチ本体とペダル枠をつなぐ穴(Φ12.5㎜)に挿す丸棒は、ちょうどいいものがすでにあったので流用。
⑥ 押さえバーの中央に下面にV字の溝付け。丸い材を削り馬に挟むときにも安定するように。
5.傾斜板をつくる
押さえバーの下にくる傾斜板は、ベンチ本体に留め外しできる仕様です。
① ヒノキ厚板ののこりを、ほどよい長さにカット(悩みましたが今回は420㎜にしました)→ 鋭い縁を面取り。
② ロングアイボルトをゲット。このボルトの幅で、傾斜板の片側の端の中央にスリットを入れました(ノコで2本切れ目を入れて、幅の細い彫刻刀で切れ目を繋いで)。
③ スリットを入れた側の傾斜板の下端を大きめにR化。先端を留めた状態で傾斜板を上下させやすくなるように。
④ 傾斜板先端にロングアイボルトの輪っか部分を取り付け。傾斜板のスリット部分の側面の、木口から36㎜のところに、Φ12.5mmドリルで横穴開け → スリットにロングアイボルトの輪っか部分を挟み、穴とちょうどの太さの丸棒を横から差し込んで、輪っかを通して逆側まで通しました。
⑤ ベンチ本体に傾斜板を留めるための穴あけ。傾斜板に取り付けたロングアイボルトのボルト部分を通せるよう、ボルト径でベンチ側に穴開け → ロングアイボルトを穴に通して、ベンチの底面側でナットでゆるく留める。(このボルトを外して傾斜板を取り去れば、ベンチ本体は「ただのベンチwith小さい穴1つ」に^_^)
⑥ 傾斜板を下支えするブロックをつくる。傾斜板が手頃な高さになるよう、手頃な角材で。ブロックを縦横どちらにして傾斜板の下に挟むか、傾斜板の下のどこらへんに挟むかによって、傾斜板の高さを変えられるように。
6.組み立て
① ペダル枠を取り付けるための穴を、ベンチの側面に開ける。標準の傾斜板の高さで、ペダルをたくさん踏み込まないと材を挟めないというのは、疲れるので、材を挟んだ状態でペダル枠がほぼ垂直になる感じを目指して、穴の位置決め)→ 脚と傾斜板をいったん外して、Φ12.5mmでベンチ側面に穴開け。この穴もまっすぐに開けることが肝要で、スコヤと鏡と水平器を頼りに。
② 脚を挿し、傾斜板をアイボルトで留めて、①で開けた穴に棒を通してペダル枠をベンチに固定。
7.押さえバーの微調整
押さえバーは、スツールの脚や貫などを削るにはこのデザインでいいんですが、もっと細かく削りたいときには、押さえバーの両脇の枠パーツが、ドローナイフの動きに制限をかけてしまうな、と使ってみて実感しました。
押さえバーにヒノキの端材を取り付けて、押さえるポイントがもっと手前にくるようにしました。(急に思い立って手近な端材でつくったので、かなりやっつけデザインのやっつけ仕上がり💦)
この追加パーツはネジで留めつけてしまった。
ペダル枠は左右にばらせる仕様にしてましたが、ばらさなくても、脚を挿したままのベンチ本体から、くぐらせるようにしてするっとペダル枠を外せることに気づいたので、ペダル枠はばらせなくていいな、と結論したのでした(そのほうが使い始めるときの組み立てもラク)。
押さえバーと傾斜板のあいだの空間は、傾斜板を支えるブロックの起き方で変わるしくみ。
■使うときは専用クッションを
実際に削り馬に座って削るときは、この削り馬はやや本体がスリムなので、お尻を守るためにクッションを敷くといい感じです。
友人の友人が手づくりしたという、いただきものの原毛クッションを専用クッションにしています^_^(ル)さん、ありがとう。
■削り馬として使わないときは
ペダル枠と傾斜板を外して、ただのベンチとして置いておくと、ちょっとしたものを置くのに便利です。もちろんちょっと腰掛けるにもいいです。
脚が末広がりになっているので、置き場所は選ぶかもですが……。
ベンチとして出しておくより全部しまっておきたい、となれば、脚をぱらんと外せば部屋のちょっとした隅にしまいこんでおけるので便利です^_^