スプーンの機能は、ものを掬って運ぶことにありますよね。
デザインを専門的に勉強したことがあるわけでもなく、手が動くにまかせて+手元の材の状態に合わせて、いろんなスプーンを削ってきているのですけども、スプーンのフォルムについては、スプーン削り講座に参加したなかで覚えたことや、削るうちに自分の中で目安にし始めたポイントが、いくつかあります。
最低限必須な要素は何のなのかを考えるにあたっては、諸外国の、素朴な暮らしに根付いた極シンプルなデザインのスプーンからも、ヒントをいただいています。
覚書きとして、ざっくり書いてみようかと思います。
①食事用スプーンは、さじ面のくぼみを浅めに
初めてスプーンを削ろうとするとき、さじ面を深く彫りすぎてしまう傾向が誰しもあるようです(自分もそうでした!)。
スウェーデンのグリーンウッドワーカー、ヴィッレ・スンクヴィストさんは「上唇がさじ面の底全体につくように、深さは7~8ミリ以下に、最大でも9ミリまでにすること」とおっしゃっています。
カレースプーンやスープスプーンなど、掬ったものを口に運ぶ用途のスプーンだと、口の中に運んだあと、スプーンが口から抜けるときに、唇の形にさじ面がフィットすることが使いやすさにつながるかと。上下の唇でさじ面をはさみこむことで、スプーンが口から抜けるときに、さじ面の上に乗っているものが口の中に落ちるわけで、さじ面のくぼみが深すぎると、これがやりにくくなってしまいますね。
②さじ面は柄に対して起き上がらせて
さじ面と柄が一直線上にあるタイプのスプーンもありますが、大多数のスプーンは、さじ面が斜めに起き上がっています。
このことがよくわかる例だなあ、と思ったのが、スリランカ製の素朴なアルミ製(?)のスプーン。まっすぐ(or ほぼまっすぐ)な筒状の柄に対して、さじ面が斜めになるように溶接されています。
柄を手に持った状態で、その手を自然な角度にしたときに、さじ面が立ち上がってないと、掬ったものが滑り落ちてしまいますね。
掬ったものを運ぶところで「掬ったものが滑り落ちやすい」ことから、柄とさじ面が一直線上になるスプーンは北欧では「貧乏人のスプーン」と呼ばれる、とか聞いたことがあります(うろ覚え)。
※コーヒースクープやスパイススプーンなど、くぼみが極端に深いものの場合は、柄とさじ面が一直線なものもよくありますね。軽量スプーンなんかもそうですね。
③さじ面の先端側は浅瀬に、首側は深めに
ある程度の分量を一度に掬えるようにすることと、スプーンの「抜け」をよくすること、これを両立するには、さじ面の先端側は浅めに、柄に近い側は深めに整えるとよいです。
さじ面のくぼみの一番深い場所が、さじ面を縦に3分割したときの2/3のところになると、いいバランスになると教わりました。
④さじ面の厚みは、なるべく均等に
生木を削る場合、乾燥時の割れを防ぐには、厚みをなるべく均等に。3~4㎜の厚さに。
⑤さじ面の先端は、やや厚めに
特に木目がさじ面のカーブにそろっていない場合(曲がり材ではなくまっすぐな材からスプーンをつくる場合)、さじ面の先端は目切れてしまうので、強度を持たせるためにやや厚めに。
⑥負荷のかかる首の部分には、十分な強度を
スプーンで一番負荷がかかるのは、さじ面と柄が切り替わる首の部分。十分な強度を持たせることが必要です。
木製スプーンの場合、強度は「十分な厚みを残す」もしくは「木の繊維が断ち切られずに通っている部分を多くする」ことによって生まれます。
「十分な厚みを残す」場合は:
a) 正面からみた首を幅広にする。日本でよくつくられている木製スプーンはこの考え方かな。
b) 正面からみた首を細くし、横から見た首部分を厚くする。北欧の伝統的スプーンはこの考え方。(もしかしたらスウェーデンで一般的にスプーンづくりに使われてきた樹種が、こういうデザインを必然化したのかもしれません。バーチなど、わりと柔らかめだからかも……。)
木の繊維を断ち切らずに通す場合、木が曲がって育った部分を使うことで実現できます。柄の首部分~さじ面の底面が、木目の流れに沿うようなカーブのある材を活用。
⑦柄の長さは、「さじ面の長さ×2」くらいに
柄の長さをどのくらいにするのがいいかは、用途と好みによって変わってきますけども、個人的に、「柄の長さ=さじ面の長さ×2」にするとバランスがいい気がしています。
柳宗理さんデザインのスプーン。柄の長さはおおよそさじ面長さの2倍。
⑧さじ面の輪郭のカタチは、たまごをお手本に
これはアメリカのグリーンウッドワーカー、ジャレッド・ダールさんに教わったのですが、さじ面はたまごの形を参考にして基本形を考えて、そこからバリエーションを展開していくといい感じになります。
実物のたまごをみると一つひとつ個性があります。たまご型と一口にいっても、微妙にいろいろあって! 自然界の実物のたまごは、フォルムの先生として、とても参考になります。
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